江戸を楽しむ

Enjoy Edo

第三一回

柑橘類のお話

 夏が近づくと、甘くて酸っぱい柑橘類を使ったスイーツが食べたくなりますね。
 
 全国各地で柑橘類が商業用に栽培されるようになったのは江戸時代のこと。とくにミカンが大人気でした。
 
 江戸一番のブランドミカンは紀伊国・和歌山県有田産のミカン。江戸時代初期の流通事情では1か月かけて船で運ばれたため、2籠1両(およそ30キロ10万円)の値が付くこともあった高級品です。
 
 ある年、紀伊国でミカンが大豊作となり、いつのように江戸へ運ぼうとしましたが、運悪く嵐で船が出せなくなりました。この結果、ミカンの値段が大暴落してしまいます。
 
 これに目を付けたのが文左衛門という地元の若者。「激安のミカンを大量に仕入れて、江戸に持っていけば絶対高く売れるはず!」と考え、ボロ船を購入して危険を顧みず嵐の海に漕ぎ出し、命がけで江戸にミカンを届けたのです。
 
 この戦略は大当たり。ちょうど江戸では、ふいご祭り(鍛冶屋が近所の人たちにミカンをふるまう習慣)のタイミングだったこともあり、高値で飛ぶように売れました。
 
 こうして巨利を得た文左衛門は、江戸一番の豪商にのし上がり、“紀伊国屋文左衛門”としてその名を全国にとどろかせます。この話、後世の創作ではないか?ともいわれていますが夢のあるお話ですよね。
 
 ちなみに、ミカンは晩秋に収穫され冬場に食べるもの。当時は夏場に柑橘類を食べる習慣はポピュラーではありませんでした。
 
 転機は幕末です。長州・山口県萩にダイダイという柑橘類があって、食用ではなかったのですが、夏まで枝に残っていた果実をたまたま食してみたところ美味しいことが判明!“夏ミカン”と呼ばれるようになり、明治時代以降に定着していくんです。
 
 夏場に柑橘類が手軽に食べられるようになったのは、最近の事なんですね。

本文イラスト:ほーりー

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