江戸を楽しむ

Enjoy Edo

第三三回

江戸人と餅

 ペッタンペッタン・・・。年末になると江戸の町のあちこちで正月用の餅をつく音が響きました。
 
 餅は日本人の究極のハレの日の食べ物といっても過言ではありません。
 
 古来より、日本では稲は穀霊が宿る神聖な植物で、その稲からとれる米は人間を活かす最も重要な食べ物。それを手間暇かけて搗いて固めた餅は、特別でありがたい物だと考えられてきたからです。
 
 江戸に暮らすひとびとも、こぞって正月に向けて餅を準備しました。当時の餅の入手方法は大きく分けて4つあります。
 
 1つめは、自宅で餅つきをする。当たり前なようですが、杵や臼など一通りの道具をそろえて一から餅を作るのは大変な作業。よっぽど裕福な家でなければ不可能でした。
 
 2つめは、賃餅。お金を払って自分の代わりに菓子屋に餅をついてもらう方法です。毎年注文が殺到するので、12月15日までの完全予約制だったとか。クリスマスケーキみたいですね(笑)。
 
 風月堂のような御用菓子屋にも、お得意先の武家屋敷から沢山の注文が入ったようなので、相当忙しかったと思いますよ。
 
 3つめが、自宅の前まできて餅をついてもらう、餅つきの出張サービス・引きずり餅。道具を引きずってやってくることから、こう呼ばれました。
 
 普段は鳶を生業にしている若い衆が、年末限定で餅つきの依頼を受けつけるんですね。人件費がかかって割高ですが、威勢のいい餅つきはいい景気づけになるため、需要はかなりあったようです。
 
 4つめは、正月用品を販売する歳の市で、出来上がった餅を購入する方法。これが一番手軽で安上がりでした。
 
 現在は機械で大量生産ができるようになり、餅のありがたみは薄れてしまいましたが、大切にしたい食文化ですね。

本文イラスト:ほーりー

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