江戸を楽しむ

Enjoy Edo

第三五回

夏の味覚、今昔

 夏場によく見かける“日向夏味”の商品。上野風月堂でも季節限定で日向夏を使ったお菓子が発売されます。
 
 この日向夏が発見されたのは、江戸時代後期の文政年間(1818年~1829年)。日向国=宮崎県の民家の庭で偶然誕生したといわれています。当初は酸味も強く食用には不向き。その後のたゆまぬ研究と品種改良によって、人気フルーツになっていったというわけです。
 
 地元・宮崎県では2020年度を「日向夏発見200年」と位置付け、大いに盛り上がっているそうですよ。
 
 このように、現代では夏の味覚として親しまれている“日向夏味”ですが、江戸時代には夏場に柑橘類を食べる習慣自体がありませんでした(第三十一回コラム参照)。
 
 では、当時の夏の味覚といえばなんだったんでしょうか?
 
 最もポピュラーなのが枇杷葉湯。琵琶の葉を乾燥させて、肉桂(ニッキ)・甘茶などと合わせて煎じた、スパイシーでほんのり甘く、すっきりした飲み口の清涼飲料です。
 
 実は枇杷は、仏教の経典に「枝、葉、根、茎、すべてに大きな薬効があり、触れたり、香りをかいだり、舐めることで病気を治すことができる」と書かれているほど古くから薬効が知られてきた植物。
 
 日本では1300年前から病気の治療に使われていた、民間療法の王様的存在なんです。
 
 実際、枇杷の葉には、体にたまった熱を冷やす作用や、胃腸を整え食中毒を防止する効能があるそうですよ。夏バテの強い味方!
 
 このため江戸時代の江戸や京都では、暑くなってくると枇杷葉湯売りの行商が現れ、町を流し歩いて試飲販売を行っていました。これが当時の夏の風物詩だったんです。
 
 今ではあまり一般的ではなくなってしまった枇杷葉湯ですが、失われた江戸人の知恵をうまく現代の生活に取り入れ、健康に夏を乗り切りたいですね。

本文イラスト:ほーりー

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